木耐協調査データ 2021年3月4日発表

「コロナ禍の今、高まる耐震化の重要性 建築年に応じた耐震提案が求められる」

⽊耐協は22年前の今⽇、1999年(平成11年)3⽉4⽇に建設省(現在の国土交通省)の認可を受け任意団体から事業者協同組合に組織変更しました。

今年は、東⽇本大震災より10年、熊本地震より5年という節目を迎えるにあたり、耐震診断結果調査データをリリースします。今回の調査データでは、診断依頼者の年代と築年数にフォーカスし耐震診断の現状と課題について考察しました。

今回のトピックス*見出しをクリックすると移動します

■定期報告「耐震診断基本データ」

診断した9割の住宅で現行の耐震基準を満たさず

■診断依頼者の年齢と築年数に関する考察

①「診断依頼者の75%は60歳以上(平均年齢66.14歳)」
②「耐震診断の申込みは「81-00住宅」が過半数」
③「年代別では60代以下の60%以上は「81-00住宅」に居住」
④「築50年を過ぎると、耐震診断の件数は激減」

■まとめ「年代別に必要な耐震提案」

耐震診断基本データ

この耐震診断基本データは前回発表時から追加された診断結果を加算して毎回発表しています。
今回は2006年4月1日~2021年2月28日(14年11ヶ月)の間に耐震診断を行った27,929棟が対象です。

【1】耐震診断結果(基本データ)

「9割超」の住宅が現行の耐震基準を満たさず

診断基本データ全体

【2】旧耐震基準住宅(1950~1980年)の耐震診断結果

「97.3%」が現行の耐震基準を満たさず

【3】81-00木造住宅(1981~2000年5月築)の耐震診断結果(新耐震基準住宅)

「85.9%」が現行の耐震基準を満たさず

【81-00木造住宅とは】
本調査データでは、昭和56(1981)年~平成12(2000)年に建築された在来軸組構法の住宅を『81-00木造住宅』と呼びます。平成28年4月に発生した熊本地震では、昭和56年以前に建築された「旧耐震基準」の住宅だけではなく「新耐震基準」のうち接合部等の規定が明確化される以前の『81-00木造住宅』にも倒壊等の被害が見られました。このため、国土交通省の依頼を受けた(一財)日本建築防災協会が平成29年5月16日に「新耐震基準の木造住宅の耐震性能検証法」を公表しました。木耐協では、2019年12月より「81-00木造住宅」の耐震化を進める「81-00(ハチイチゼロゼロ)プロジェクト」に取り組んでいます。

診断依頼者の年齢と築年数に関する考察

木耐協では、耐震診断を実施する際に、診断依頼者の年齢を任意でお伺いしています。定期報告の「耐震診断基本データ」の内、年齢をご記入いただいた方7,520人の回答について分析を行いました。

①診断依頼者の75%は60歳以上(平均年齢66.14歳)

依頼者は、60代・70代が多く、80代になると減少しています。30~40代でマイホームを購入し、築年数が30年以上経過された方からの依頼が多いためだと考えられます。

②耐震診断の申込みは「81-00住宅」が過半数

「81-00住宅」が過半数を占めました。今後の耐震診断は「81-00住宅」が中心となっていくことが予想されます。

③年代別では60代以下の60%以上は「81-00住宅」に居住

年齢と住宅の築年数は比例し、高齢なほど築年数が古い住宅に住んでいる傾向があり、70代以上は旧耐震に住む人の割合が過半数でした。一方、60代以下は「81-00住宅」に住む人が6割を超え、旧耐震基準住宅に住む人は4割を下回りました。
「81-00住宅」に住む60代以下は、年齢的にはまだその家で暮らすことが想定されますが、住宅は築20年を超え、手入れが必要な時期を迎えているため、リフォームの「メインターゲット層」と考えられます。事業者側からのリフォームと併せた耐震の提案も進めたい年代といえます。

④築50年を過ぎると、耐震診断の件数は激減

1970年前に建築された住宅の診断依頼は13%のみ

まとめ

旧耐震基準住宅の耐震化の現状と課題
~予算内で可能な「減災設計」も視野に~

年齢と住宅の築年数は比例関係があり、高齢なほど旧耐震に住む方が多いという結果となりました(トピックス3)。なお、耐震補強工事の平均施工金額は、旧耐震が189万円、81-00住宅が152万円となっており、旧耐震の方が平均37万円も補強工事の金額が高くなっています(耐震診断基本データ 3ページ)。

多くの自治体で、耐震補強工事に関する工事費や設計に対する補助金や助成金が整備されていますが、大半の自治体では、補助金の利用条件が「現行の耐震基準(総合評点1.0)まで補強すること」となっています。そのため、工事費用から補助金を差し引いた自己負担金額が予算を超えてしまい、耐震工事を諦めてしまうケースもあります。また、耐震補強工事をした場合、所得税の特別控除が受けられますが、年金生活者など所得税が課税されていない場合はインセンティブとはなりにくい状況がうかがえます。

木耐協では、現行の耐震基準を満たす耐震補強だけでなく、『合理的設計指針(減災設計)*1』を組合員に推奨しています。予算内で最大限耐震性を高めることで、住宅の倒壊リスクを下げることにつながります。一部の自治体では減災設計に沿った助成金が整備されています。旧耐震住宅はますます老朽化が進むため、減災設計に合致した助成金の拡充が望まれます。

また、事業者は旧耐震の住宅にはこうした状況を踏まえた耐震補強の設計に加えて、年齢や予算に合わせたリースバックやリバースモーゲージ等を用いた資金計画の提案力が求められます。

*1『合理的設計指針(減災設計)』
減災設計とは、住宅全体の耐震性を向上させる工事が予算にあわない場合、予算内で最大限の補強工事を行うことで災害リスクを減少させる補強設計のことです。具体的には、1階だけを現行の耐震基準に補強する工事や総合評点0.7を目指す耐震補強工事です。

リフォームのメインターゲット層が暮らす
「81-00住宅」こそ耐震補強を積極的に推進

木耐協に依頼がある耐震診断の過半数が「81-00住宅」となっています(トピックス2)。木耐協の診断結果では、「81-00住宅」の85.9%が現行の耐震基準を満たしていませんでした(基本データ)。木造住宅の耐震基準は、1981年に建築基準法が大幅に改正され、その後2000年に補足整備されています。

2016年に発生した熊本地震で「81-00住宅」の約2割が倒壊・大破といった大きな被害を受けたため、国土交通省も1981年から2000年までは、耐震性の確認が必要な年代としています。

2000年に建築された住宅も築20年を超え、経年劣化により耐震性の低下も考えられます。この年代の住宅こそ、住宅を安全・安心にする耐震リフォームが必要となるため、「81-00住宅」に対する自治体の助成制度の拡充が望まれます。

自然災害への備えの第一歩は「住宅の耐震性確保」
~耐震性の向上が避難所の「三密」を避ける~

木耐協は、木造住宅の耐震性を高めることが防災の第一歩だと考えています。災害時の備蓄品があっても住宅が倒壊してしまってはその役目を果たせません。

また、大地震後も自宅で安心して過ごせる(在宅避難する)人が増えることは、避難所での密を避けることにもつながります。新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症による避難所での複合災害リスクを下げることになるため、事前防災として平時のうちに住宅の耐震性を高めることが重要となります。

防災の観点からも、住宅の耐震化を推進する必要性が今まで以上に高まっているといえるでしょう。

「旧耐震基準住宅」には減災設計を含めた提案を、 「81-00住宅」にはリフォームの機会に耐震提案を、 1人でも多くの人が可能な耐震補強を行うことで、 被災する人が少なくなり、地域の強靱化につながります

 

「旧耐震基準住宅」には減災設計を含めた提案を、
「81-00住宅」にはリフォームの機会に耐震提案を、
1人でも多くの人が可能な耐震補強を行うことで、
被災する人が少なくなり、地域の強靱化につながります

関連団体サイト

国土交通省 一般社団法人住宅リフォーム推進協議会 リフォーム生活向上プロジェクト 安心リフォームの証