|
補強は当然の必要経費
『家の寿命は手入れしだい』
横浜市磯子区 K邸 (建物の図面はこちら)
|
今月の現場は、横浜市磯子区のK邸。みなとみらい、山下公園など大きく変貌した横浜中心部から真南に数キロ、本牧埠頭を隔てた反対側が根岸湾で、根岸から磯子にかけての湾岸には石油精製、電気、ガスなどのエネルギー・プラントが立ち並んでいる。その根岸湾にほど近い高台に開けた住宅街の一角に、K邸がある。
磯の香り、豊かな緑、丘の坂道 「横浜らしさ」の残る町
磯子は坂の町である。湾岸沿いに走るJR根岸線、国道16号のすぐそばまで、標高20mから50mの大小の丘陵や台地が迫っているためだ。これらの丘陵とその谷間(当地ではヤトと呼ぶ)が複雑に入り組み、海沿いの町に特有の景観を作り出している。
いままでは丘陵のてっぺんまで宅地として開発されつくしているが、建築不能の急傾斜地(ノリ面)が多いから、その部分は自然林や竹やぶとして残され、下から見上げれば緑の中に住宅が点在しているように見える。都市計画上からはともかく、せせこましい都心部の住民にはうらやましいほどの環境だ。
余談になるが、K邸からほんの数分のところに、かつて「ひばり御殿」と称された演歌の女王、美空ひばりの邸宅があった。
磯子周辺の景観に惹かれて移り住んだ文化人や芸能人はかなり多い。
|
|
|
まるでサンルーム 充分な採光、開放感
Kさんが現在の家を建てたのは、30年ほど前の事である。建築は近所の大工さんに依頼したが、設計については大学を出たばかりの甥が設計事務所に勤めていたので「好きなようにやらせてみた」のだそうだ。そういわれれば、たしかに30年も前に建てられた木造住宅にしては、かなり斬新なデザインである。
吹き抜けの玄関ホールから居間にかけては採光に重視した開放感のある空間になっており、階段の背後の大きな一枚ガラスを大胆に使用した窓が印象的である。庭に面した居間の前面も大きめの開口部になっており、サンルームのように陽光を取り入れることができる。
アイディアとしては面白いが、こと安全性に関してはいささか問題があったようだ。
|
斬新なデザインだが耐震強度に問題が・・・・
最近、Kさんは横浜市が毎年実施している精密耐震診断を受けてみることにした。やはり建築後30年にもなる家が、どんな状況かを確認しておきたかったのだ。
ただ奥さんの話では、柱や床の傾き、ドアや窓のたてつけなど、どこにも異常はなかったということだが、耐震診断の評価数値は0.66で、「倒壊の危険がある」という厳しい判定だった。
診断を担当した武野テッケン一級建築士事務所の武野剛一建築士によれば、「この家には耐震性の面でいくつか問題がある」のだそうだ。
最大の問題は、1階の南側にほとんど壁がなくてガラス張りになっていること。逆に北側は小さな開口部が3か所しかなく、壁配置バランスが悪い、いいかえればネジレに対して非常に弱い構造になっていることだ。
地盤や基礎の状態はまずまずだったようだが、いずれにせよ旧基準法時代の建物なので、基礎回りや小屋組みを含めてかなり補強の必要がある、というのが武野さんの判断だった。
ガラス戸が壁に? 特性金物を外付け
そこで武野さんがまず提案したのが、最大の弱点である南側の大きな開口部に耐力壁を設けることだった。
とはいえ、居間前面の大きな開口部はこの家を特徴づける部分であり、これを無粋な壁でふさいでしまったら、この家の値打ちが半減する。
そこで武野さんは、装飾性ををもたせた鉄製のフレームを特製して、外側から基礎と梁にボルト止めするというウルトラCの技を編み出した。
これにより、開口部はガラス戸としての昨日をいささかも損ねることなく、りっぱな耐力壁に生まれ変った。南面に壁が少ない家はかなり多いはずであり。鉄製のデザインフレームで補強するという方法は、大いに参考になるだろう。
またK邸には、直下型地震に備えて建物全体の浮き上がりを防止するホールダウン金物(ホゾ抜け防止金物)を1階の出隅柱に装着することも、併せて提案された。
かなりの大工事に
Kさんは、武野さんの改善提案を全体的に受け入れ、開口部のフレーム補強のほかホールダウン金物を隣接するアパート部分を含めて10か所に装着、さらに小屋組みの締結金物補強なども行うことにしたため、かなりの大工事になった。
しかしKさんは、これまでにも家の建設資金をはるかに上回る営繕費用をかけて屋根や外壁、床下などの維持、管理をしてきたという。
「これは、家を持った以上は当然発生する必要経費です。こうした手入れをすることで、木造住宅でも100年以上の寿命を保つことができると考えています。その意味では今回の補強工事も、30年経過した家にとっては、どうしても必要な手入れだったと思います」とKさんは語っていた。
耐震診断及び補強工事施工
(株式会社 武野テッケン一級建築士事務所 電話045-832-1155)
|