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(2006年9月2日 asahi.com)
 10年間で地震被害を半減させる――。そんな具体的目標を掲げて動き出した国の地震防災戦略に対し、具体化を求められる自治体には、数値の設定や手法をめぐって戸惑いが広がっている。初めて数値目標を取り入れることで、なかなか進まない耐震化の促進や避難意識の向上を狙っているが、効果を疑問視する声もある。財政的な裏打ちも見えない中、「防災の数値化」は減災への有効な手段となるのだろうか。

 戦略が立てられたのは東海、東南海・南海、首都直下の三つの地震。目標達成のため、(1)住宅の耐震化率を75%から90%に引き上げる(2)自主防災組織を96%以上にする(3)海岸のあるすべての地域で津波ハザードマップ(災害予測図)を整備する――など約50項目に及ぶ目標を国が定め、自治体に「地域目標」の設定を求めた。

 首都直下地震に備えて地域防災計画を見直す東京都は、来年1月をめどにまとめる素案の中で、地域目標を設定する予定だ。「死者半減といえば聞こえはいいが、被害想定から逆算しただけで道筋や財源は不明。簡単に数字は出せない」。都の担当者はそう漏らす。

 数字だけの目標達成にも疑問を投げかける。

 都心部を取り囲むように広がる木造住宅密集地域では、耐震基準を満たさない住宅は35万棟に上るとみられる。それでも都全体の耐震化率は80%強だ。耐震化率は住宅戸数で算出するため、大規模マンションが次々できれば数字上は上がる。

 墨田区や荒川区などの下町では、消防車が入れない狭い道が入り組み、木造住宅がひしめく。住宅が一戸倒壊すれば道路をふさぎ、その一帯の救助や消火、避難ができなくなる危険性がある。中村晶晴・総合防災部長は「実際はソフト面の把握が重要。それを踏まえて数値目標をどう設定できるか悩ましい」と話す。

 政令指定都市で東海地震の対策強化地域に入る名古屋市。旧耐震基準の81年以前の木造住宅が約17万棟ある。担当者は「数字に表れることばかりにとらわれ、半減戦略が逆効果にならないように注意したい」。

 東海、東南海、南海地震が同時に起きた場合、津波の死者数が最悪6000人に達すると想定する三重県も、年度内にまとめる予定の地域目標の数値化に頭を抱える。

 津波が押し寄せた時に逃げ込む「避難ビル」は、指定した数で目標が示せる。しかし、国が核に掲げる「避難意識の向上」は、達成度をどう数値で示すかが課題だ。

 県は、住民にアンケートして防災訓練や講演会の参加率をまとめ、その増加を、死者を減らす早期避難率に換算する計算式を検討中だ。ハザードマップは、作製率から犠牲者の具体的な削減数を算出するのが難しい。

 高知県は南海地震が発生すれば最速3分で数メートルの大津波が沿岸に押し寄せる。今年3月、ハザードマップの作製率などソフト面を中心に数値目標を立てたが、ハード面の柱となる水門の自動閉鎖化などは努力目標にとどまる。担当者は「財政的なめどがない。目標達成のための補助制度の充実など、国に財政支援してほしい」と話している。

 〈キーワード:地震防災戦略〉 中央防災会議が被害想定をまとめて対策大綱を定めた切迫性のある大規模地震が対象。04年7月の中央防災会議で取り組みが決まった。三つの地震の戦略のほか、日本海溝・千島海溝型地震の被害想定がまとまっている。