和歌山はいま、観光ブームに沸いています。先日、高野山や熊野三山を含む紀伊山地が世界遺産に登録されたからです。高野山の入り口に当たる和歌山市にも、活気が出てきたように見えます。
紀ノ川の豊かな流域に
診断依頼者邸は、和歌山駅から北東へ進んだところに位置しています。地元の話では、かつてこの一帯は一面の水田だったそうで、おそらく紀ノ川が運んだ沖積土で、豊かな穀倉地帯を形成していたのでしょう。
三重県との境にある大台ケ原を源流とし、奈良県の吉野を経て和歌山港に注ぐ紀ノ川は、いうまでもなく紀伊半島最大級の川です。年間5000ミリに達する降雨量の多さで知られる大台ケ原が水源ですから、紀ノ川の水量は四季を通じて豊かです。奈良朝の時代から和歌山港に至る貴重な水路でしたが、古い文献によればかなりの暴れ川だったらしく、数々の洪水被害が記録されています。
しかし近年になって堤防が整備され、流域が水害に悩まされることもなくなり、このあたりもすっかり落ち着いた住宅街になっています。
見た目には格好のいい家なんだけど
依頼者様が現在の家を購入したのは、昭和62年の夏でした。1階の一部を喫茶店にしていた建物を、中古物件として買い取ったそうです。敷地は約40坪あり、L字型の2階建てで、本瓦葺きの「格好のいい」家です。元の持ち主がいろいろ注文をつけて建てた家なのでしょう。
当時、金融機関に勤めていた依頼者様は喫茶店を営業するつもりはありませんでしたから、入居する前に店舗部分を洋間に改装しました。土間だった店舗に床を張り、厨房部分をダイニングキッチンにしたというわけです。
そのあと何年か後に、モルタル外壁の上からサイディングで化粧したため、依頼者邸は築年数にしては新しく見えます。
とくに不安があったわけではない?
依頼者様はこの家に奥様と二人で暮らしていますが、とりたてて住まいに不満や不安があったわけではありませんでした。注文建築の家だけに骨組みも造作もしっかりしており、床や柱に傾きも出ておらず、建具の開け閉めにも異常はありませんでした。
とはいえ、依頼者様もご高齢でいらっしゃいます。現在も郵政公社関係の仕事を続けていて、まだまだ健康には自信がありますが、やはり最近は今後のことをいろいろ考えるようになったといいます。自分たちにはこの家が「終の棲家」なのですから、あと何十年かは安心して暮らしたいということでした。そのためには、この家が丈夫で長持ちしてくれる必要があります。そこで元気があるうちに、できるだけのことはしっかりやっておこうというわけです。
今年の1月、木耐協のチラシを見て耐震診断を申し込んだのも、そのような動機からでした。とりたてて地震への恐怖があったからではないと、依頼者様は言います。
家の構造自体に少し問題が…
耐震診断の結果は、微妙な判定数値でした。倒壊や大破壊の危険は少ないとしても、やや不安があるという範囲です。
今回の診断を担当したのは、和歌山市内に本社を置くアーキテクトSUN−DO一級建築設計事務所の山東秀生さんですが、「やはりこういうL字型構造の家はバランスが崩れやすい」と山東さんはいいます。この家は壁の総量は十分にあるのですが、家全体に大きな切り欠きがある形ですから、大きくねじられたときに切り欠き部分に応力が集中して、そこから破壊されやすくなるのです。