鉄骨構造物で家を吊り下げる?
常識的に考えれば、この家の補強方法としてはまず劣化した基礎を全面的に作り替え、そのうえに躯体を組み上げたいところです。しかしほぼ敷地いっぱいに建物が作られており、隣家との間隔も狭いので基礎工事のスペースが取れません。
また内側から工事するとなれば、コンクリート土間を撤去する必要があるため、設置されている機械類の操業を中断しなければなりません。
そこで診断者が提案したのは、家の4面に鉄骨構造のトラスを設置し、これで家全体を支えてしまおうという奇抜なアイディアでした。
トラスとは部材を三角形の集合形式に組み立てた構造物のことで、湾曲力に強く、橋梁や工場などの屋根によく用いられています。
トラス両側の柱にはそれぞれ独立した基礎を設け、上端の横梁は建物の胴差に緊結されています。つまり建物1階部分は、1基のトラスに吊り下げられる形になります。劣化した基礎にも、強度不足の壁にも家の重量がかからないようにするとともに、地震によるねじれ応力はトラスで受けるようにしたわけです。
もちろんトラスの構造や仕様は、日生住宅の一級建築士ら技術スタッフが綿密な構造計算を行ったうえで決定されました。
耐震補強の目的はただ一つ
今回のケースは、これまで木耐協が進めてきた住宅の耐震補強とはいささか異質です。しかし既存住宅の状況は千差万別ですし、工事にもさまざまな制約条件がともなう場合が少なくありません。
しかしどんな状況のもとにあっても、耐震補強を行うことは不可能ではありません。逆の言い方をすれば、どんな方法を講じようと、その家が地震で倒壊せず、命が助かることが耐震補強の唯一の目的です。この事例が木耐協のリフォームデザイン&アイディアコンテストで優良作品に選ばれたのも、型破りの発想でさまざまな困難を克服した点が高く評価されたからです。
この補強工事に満足したNさんは、「今度は自宅の耐震補強を」と語っているそうです。
(耐震診断および補強工事施工=日生住宅株式会社 耐震建築事業部 電話045−431−3001)