調布市は東京都の西端、多摩川の流れに沿って広がる街です。東は狛江市、世田谷区に隣接し、南側の対岸は川崎市多摩区という位置関係になります。調布駅までは私鉄の特急で新宿から約15分というアクセスの良さもあり、30年ほど前から人口が急増していますが、それ以前は多摩川周辺の眺望を愛する文化人や財界人の別邸も多くありました。映画産業が華やかだった時代を支えていた撮影所も、多摩川堤のすぐ近くにあります。
子育てには最高の環境
今回の診断依頼者がこの家を購入したのは、約30年前のことです。多摩川まで数十メートルという立地条件が、まだ幼かった3人の子供さんたちを育てるには最高の環境だったからということでした。
たしかにこのあたりには、都心部からピクニックに訪れる家族連れの方々が多くいらっしゃいます。美味しいそばで有名なお寺なども近くにあり、徳富蘆花や国木田独歩らの文豪が愛した武蔵野の面影が随所に残されていることから、田園風景を楽しむ散策コースには事欠きません。
当時は周辺に住宅もわずかしかなく、高層マンションなども建っていなかったから、窓外に大きく広がる田園風景が何より魅力でした。1階が38u、2階が36uという規模で、東南角に面しているので日当たりも良好です。
地震のたびにハラハラしていた
工業系の大学教授だった診断依頼者は、建築は専門ではないが地震により家が倒壊するメカニズムはよくわかっていました。そしてこの家が、大地震に耐えられそうにないとも思っていたということです。
大正12年の関東大震災では、このあたりには大きな地割れが発生し、液状化により砂利が噴出したという話も聞いているため、大地震への不安は常にありました。診断依頼者の言葉によれば、「いつもハラハラしていた」のだそうです。
補強より転居したかった…
診断依頼者が木耐協の耐震診断を受ける前から、ご夫妻の間では転居が真剣に話し合われていました。もう少しゆとりがある家に住みたいということだったようですが、一時は四国への移住まで考えたことがあるといいます。数年がかりで、茨城県の霞ヶ浦周辺や、山梨県の河口湖あたりまで土地探しに足をのばしたこともあるそうです。
つまりSさんご夫妻にとって、この家を修理して住み続けるという選択肢は、あまり優先順位が高くなかったのです。
やはりこの場所が一番よかった
Sさんには、どうしても曲げられない住環境へのこだわりがあります。それは、川や湖などの水辺にあることと、空が大きく開けていることです。これまで見て歩いた中では河口湖の湖畔が比較的良かったそうですが、やはり多摩川べりのこの家以上の場所を見つけることはできませんでした。
現在地に住み続けるとした場合、選択肢は建て替えるか、補修するかの2つです。建て替えてしまおうと一時は考えたのですが、このあたりは住居専用地域なので建ぺい率が4割しかありません。新築しようとすると、現在の家よりも狭くなってしまうのです。
診断依頼者がこの家を補修して住み続けることを決断したのは、耐震診断から9か月ほどが経過した年末のことでした。