切り欠きを作れば壊れやすくなる
空のマッチ箱を二つ重ねにしたものを想像してほしいのですが、そのまま指で押さえても箱はしっかりしているはずです。しかし二つの箱を隔てる面に一部切り欠きを入れてしまうと、箱の強度は半減してしまいます。吹き抜け構造は、1階と2階を間仕切る床面の一部に切り欠きを入れているようなものです。物体の一部に切り欠きを入れたとき、その部分に応力が集中して破壊されやすくなることは、少し想像を巡らせていただければおわかりになるかと思います。
診断担当者によると、この家には全体的な壁量はあるし、バランスもさほど悪くないということです。しかし吹き抜けを設けてあるために、せっかくの壁量が生きない状態になってしまっているとのことでした。
火打ちの補強で床倍率を高める
Nさんの話では、この吹き抜け構造は自分たちが希望したわけではなく、建設会社の基本設計によるもののようです。設計の時点で構造計算がしっかり行われていたかどうか不明ですが、目新しさやデザイン優先で強度が犠牲にされている場合も少なくないため、注意する必要があります。
ともあれ、原因がハッキリしたのであれば、その弱点を補ってやればいいわけです。すなわち吹き抜け部分が切り欠きになっているために水平構面の強度が損なわれているわけですから、それを補う方法を考えましょう。
そこでNさんに提案されたのが右の写真のような火打ち材(9cm角)を吹き抜け部の両端、1階天井梁の位置に補う方法でした。がらんどうだった開口部に12cm×21cmの横桟と4隅の火打ち材が入ったことで床倍率が向上、吹き抜けの弱点がみごとに解消されています。
しかも今回の工事では既存の壁紙がそのまま生かされており、構造材を受ける支持金物は壁紙と同系色のオフホワイトに、また横桟と火打ち材には落ち着いたオイルステン塗りが施されており、白を基調とした吹き抜け空間に格好のアクセント効果をもたらしています。
この工事がコンテストで1位に入賞したのも、「むき出しの構造部材を美しく見せることに成功した」ことが評価されたものです。
以前より見た目がよくなった!
担当者としては、万全を期するために5〜6所の既存壁の倍率をあげておきたいとのことでしたが、とりあえず依頼者の方の意向で仏壇設置場所の壁補強1ヵ所にとどめ、またクラックが発生していた基礎には、エポキシ樹脂による補強が行われました。一連の補強工事によって、このお宅の耐震強度は「ほぼ安全」の範囲まで大幅に改善されています。
工事後に依頼者の方にお話を伺ったところ「以前よりデザイン的によくなった」と喜んでいました。補強効果についてはまだ実感がないようでしたが、今後の補強は診断担当者のアドバイスを受けながら、時間をかけて検討していきたいとのことでした。